パソコンが壊れて、母と行った北海道・小樽の旅行の写真が消えてしまった。
番頭さんのトップページの「じゃらん」から予約して2泊した朝里川温泉・宏楽園は1泊1万円そこそこの料金だったが、たいへんいい宿だった。
木造の旧館と、長い廊下で続く新館があり、朝は女湯になる大きなお風呂が
午後は1時間3000円の貸し切りで楽しめ、お食事も板さんがすごくがんばっていた。
広々したお部屋から見える庭の紅葉がとても綺麗で、母ともども喜んだ。
泊まるたびに押してくれるスタンプは、1つ貯まれば次回はチェックアウトが
11時、2つ貯まればアウト11時&朝食がお部屋食、3つ目はそれにお夜食付き…などと特典がプラスされ、10個貯まると露天付きのお部屋にペアで泊まれる宿泊券がプレゼントされるのである。
10万円ちょっとの投資で、4万円強のバックである。
北海道にはこんなお宿があるのか、と感心した。
小さい子供を抱えた家族連れや杖をついたおばあちゃんのグループ、それに男性の団体客なども見かけて木造の宿で不安だったが、子供の声も聞こえず宴会の騒音もなく、朝はお風呂場に近い1階の部屋から満足そうな顔のおばあちゃんたちがお互いに支えあって出てきた。
段差があちこちにあってバリアフリーではなかったが、宿のスタッフの心は
みんなバリアフリーであった。
40分で来られる札幌の人は、幸せであると思った。
興味のある方は宿のHPをどうぞ。
2007年10月21・22日
小樽 朝里川温泉 宏楽園 2人泊 @1万600円
http://www.otaru-kourakuen.com/
今は亡き父が「年とってゆとりができたら、2人で北海道旅行をしような」と
母に言っていたらしい。
その願いは果たせなかったので、私は父の代わりに母を北海道に連れていきたかった。
祝津の展望台から海を眺めた母が
「ああ… 水平線が丸いわね… 」と言うのを聞いて、
「お父さん、代わりに連れてきたから」とつぶやいた。
祝津「ノイシュロス小樽」で貸し切り風呂に入り、その後海のそばの食堂で
母は念願のおいしい海鮮丼を堪能した。
http://www.neuschloss.com/
データは消えてしまったけれど、母と私にはいい思い出がたくさん残って
いる。
さてと…
気を取り直して。
2007年11月4日(日)
軽井沢 小瀬温泉ホテル
1人泊 @15000円
http://www.koseonsen.com/
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宿に泊まるのも縁みたいなもので、不思議と縁がない宿がある。
電話しても満室であったり、部屋が取れても急に自分の都合が悪くなったり、
同行者の都合が悪くなって急遽キャンセルしたり。
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何が何でもその宿に行きたいわけではないのでまあ仕方ないとあっさり
あきらめるが、3回くらい予約してダメになると、ああ… この宿とは縁が
ないんだな、と思う。
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それと同時にいつでも行けるのだが何となく大切に取っておきたい宿、と
いうのも自分の中にあり、軽井沢の「小瀬温泉ホテル」もそんな1軒だった。
軽井沢の歴史、特にあの嵐のようなバブルの時代を経ていまこの宿を
見るとき、私はたいへん心惹かれるものを感じるのである。
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軽井沢から草津へ向かうバスに乗って
「次は小瀬温泉、小瀬温泉でございます」というアナウンスが流れるのを
きくたびに、いつか泊まりたいと、ずっと思っていた。
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しばらく前にある女性と話をしていてたまたまこの宿の話になり
「そうですか、あの宿はまだあるんですね。 戦前に主人と泊まったことがあるんですよ。
あの… 新婚旅行で」
笑顔とともに、90歳近いおばあさんの頬がうっすら染まったように見えた。 気のせいか。
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貧しい時代、新婚旅行が山の小さな湯治宿だったとしても、共に歩む人生の晴れやか
なスタートだったに違いない。
そんなこともあって私は、お皿の上の一番好きなものを最後に残しておくように、ちょっと
この宿を取っておきたい、と長らく思っていたのだった。
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休日前以外は1人泊も応じてくれて、チェックインは13時から。
晩秋の軽井沢駅からバスで20分ほど。
小さなせせらぎに架かる橋を渡って宿に着いた。
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チェックイン一番乗り、静かな館内をスタッフに案内されて本日2階の端のお部屋。
8畳、椅子・テーブルの清潔なシンプルルーム。
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窓を開けると、澄みきった空気の中、小さく川音が響く。
小瀬…
久しぶりに爽やかな空気を吸い込んで、おもわず顔がほころぶ。
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木々はもう葉をほとんど落としてしまって、山はそろそろ冬仕度。
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テレビ、電気ポット、浴衣、暖房器。
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ユニットバス&トイレ。
お湯は温泉。トイレはウオームレット。
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湯治宿のなごりのような一部屋。
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自販機、そしてカップヌードル、お箸、お湯。
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洗濯機…
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男湯、女湯は左右対称のようである。
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年代物の成分表。
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すっきりとした明るい洗面台。
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脱衣所。
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お掃除がすんで、今まさにお湯が張られつつある女湯。 ピンクのタイル。
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大変合理的、左右対称のまったく同じ造りの男湯も、もうじきお湯があふれるだろう。
唯一の違いはブルーのタイル。
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 地味なHPを時々見ていたら、宿は今年新しく貸し切りの露天を造ったのである。
木の香がにおいたつようなそのお風呂の写真を見て、私はやってきたのだ。
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 2階の部屋を2部屋改装して造られたらしいそのお風呂は、空いていれば
フロントで鍵を借りて無料で40分、夜11時まで、何回でも入れる。
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さっそく鍵を借りて貸し切り風呂へ。
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 露天に出る前の小部屋は、シャワーブースになっていた。
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雪のためにかお風呂の上には屋根があったが、
すっきりとした小ぶりのすがすがしいお風呂だった。
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新しい木肌が目にも優しく、お湯のあたりも柔らかく…
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透明なお湯が陽ざしに輝き…
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ここに一人で入るのがもったいなく思われた。
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私は湯気が、好きである。
温泉だけでなく、ご飯の湯気、お味噌汁の湯気、コーヒーの湯気、
ストーブの上のヤカンの湯気…
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 湯気が好き、というより、湯気の象徴する温かさ、その湯気をしみじみと
見つめるゆとり。
そのゆとりが持てる、という環境…
それが好きなのかもしれない。
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チェックインが1時だったので、貸し切り風呂から出ても日はまだ高く、
晩御飯にはまだまだ時間がある。
明るい、とてもいい時間帯にお風呂に入れて、すっきりとした気持ちで散歩。
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 小さな流れを宿に沿って遡ると、その奥はとても静かな林になっていて、
青く高く冷たい空のもと、木々がかすかに息づいているのを感じる。
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 紅葉もここでは終わりを告げ、雪の到来をひっそりと待っているのだ。
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 楓の葉が積もった、静かな静かな小道を歩く。
ここには軽井沢本来の自然が残っていた。
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 そして… 突然気がついた。
「自然が残っている」のではなく、この宿が「自然を残してくれている」
というまぎれもない事実を。
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 ポンプで揚げられたお湯は、タンクに溜められることなく
直接宿のお風呂に入れられる。
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内湯はそんなに大きくはないが、しばらくぶりに感動的なお風呂であると思った。
注がれるお湯の量は豊富で、お湯の温度も入ってすぐはちょうどよく、慣れてくると
ややぬるめで、そのぬるさゆえにゆっくりと入れて、そして気がつくと汗が額から
流れていく。
暮れていく窓の外を見ながら、しみじみと心ゆくまで味わった。
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食堂で夕食。
6時、もしくは6時半の希望を事前に聞いてくれる。
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 電話の知らせで席に着くと、テーブルの上の鮎は温かく…
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洋皿のラムチョップも温かく…
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 くさみのないどっしりとした柔らかいお肉。とても2本は食べ切れない…
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ご自慢の鯉の洗いもあり…
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シャキシャキの野菜が敷かれた鴨とトマトのサラダ。
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温かなお吸い物をもってきてくれた。
どのお皿の量もたっぷりとあり、お米もおいしく、心に響く夕ご飯だった。
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夜の貸し切り風呂。
2カ所の貸し切りも双子のようにまったく同じ造り。
ひんやりした空気と、山の匂いを、一人で思いっきり吸い込める喜び。
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部屋のバスルームも温泉は出るけれど、わずかばかり歩けばとろけて
しまいそうないいお風呂があるんだもの、せっせと通う。
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生きていると、いいことあるなあ… と思ったのであった。
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朝食の前に、テラスでコーヒーをいただいた。
500円。 まあ、軽井沢価格かな〜。 寒さが気持ち良い。
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小鳥がたくさん来て眺めていたんだけれど。
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観察されていたのは、あきらかに私のほうでしたね。
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“ ホテル ”の名に恥じないオムレツ。
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お箸で口に運ぶと、中はとろりふんわり、やさしい卵の香りが広がった。
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10時にチェックアウトして宿を出る。
傍目で見ていても、あのバブルの時代の札束が舞い散る軽井沢は狂乱の態があった。
この宿の選ばなかった道…
大型旅館への改造、日帰り入浴の受け入れ、露天付きの部屋、レストランやカフェの
併設、軽井沢駅への送迎…
振り返るとひっそりとつつましく、しかしどこか毅然とした宿の姿があった。
時代に惑わされることなく、軽井沢のこの地で、貫き通す思想のようなものさえ感じ、
私は思わず宿にむかって頭を下げた。
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軽井沢に向かうバスを待つ間ぶらぶらと散策していたら素敵な林道を見つけた。
車の進入禁止でゲートがあったが、遊歩道の標識がある。
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突然この道を歩きたい思いが込み上げてきて、有料道路のバス停に引き返し
料金小屋にいるおじさんに「あの道は歩けますか?」と尋ねたら
「歩くくらいはだいじょうぶじゃないかね」とのことだった。
「どこに抜ける道ですか?」と聞くと「中軽の星野の前だよ」。
ということは国道まで出ればバスが走っている。
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「どのくらいの距離でしょうか?」
「4kmちょっとじゃないか」
下りの道だろうし4kmなら1時間、歩くのにちょうどいい距離ではないか!
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カサカサ、シャカシャカ、落ち葉の絨毯を歩く。
この広大で静まりかえった林の中、存在しているのは私一人だと思うと、
心の中に強烈な喜びが満ちあふれた。
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この林道が終わった先には、小瀬温泉が選ばなかったことをすべて
やってのけて大成功した宿がある。
“大型旅館への改造、日帰り入浴の受け入れ、露天風呂付きの部屋、
レストランやカフェの併設、軽井沢駅への無料送迎”
社長は全国の斜陽の温泉宿をたて直し、辣腕を奮っているらしい。
まるでヨーロッパの風景の中を歩くような幸福な1時間ののち、
私はその宿の併設のカフェで唯一タバコがすえる外のガーデンチェアに
腰をおろし、大量の蠅にたかられながらケーキを食べコーヒーを飲んだ。
両手を振りまわしながら。
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11月の陽だまりの中蠅まみれになるという人生の初体験、あまりの蠅の多さに
食べることは途中放棄、黒い蠅が点々とケーキに群がるにまかせた。
ふと見れば隣のおばさんも両手を振りまわしていた。
これがとりもなおさず大好きな軽井沢での出来事だったので、たいへん悲しかった。
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…… もちろん私はその施設の無料の送迎バスを利用して、
軽井沢駅へと帰路についたのではあるが……
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