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そのとき私は思い出した。 入り損ねた露天と「ここは冬でないとだめね」という言葉を。 |
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昔、叔母の仲良しグループの1人が 「ちょっと知っている中の沢温泉の宿が 別館を建てたから、行ってみましょ」との ことで、私も連れてきてくれたのである。 |
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真新しいその宿はかなりバタバタした 雰囲気で、夏のさなかの露天のお湯は とても熱く、4人でしばらく水でうめたりしたが結局入ることができなかった。 朝食前もあわただしく、露天を横目に内湯だけで終わってしまったのである。 |
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のんびり小町パック @29000円
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のんびり小町のサービスのジュースなぞいただいていると、
ワーーーンーーー … という音が部屋中に満ちた。
母が「これ何の音?」
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これはもう、これだよ!
冷蔵庫のコンセントを引き抜く。
冷たいビールが飲みたい人は困るだろうが、母も私も支障ないので。
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そして静けさが戻ってきた。
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木造りのなかなかいい内湯は昔のままのようである。
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日差しが溢れてたいへん気持ちがいい。
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細かい水蒸気が湯小屋中に充満して、まるでミストサウナ。
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お湯はやはりかなり熱く、しかし今回は 何とか頑張って入れた。 蛇口をひねれば水も出るけれど、うめながら入るのはせわしないので熱いまま 透明な、ツルツル感のあるとても綺麗な |
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あっという間に汗ダク。 長時間は入れなかったが、日がさんさんと降る気持ちよいお風呂であった。 |
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40分の貸切風呂は空いていれば何度でも予約できる。 母は夜入るというので、1人で行ってみる。 |
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あら… ホースが… モップ、雑巾、箒、ちりとりなどが目に留まり、せっかくのいい木造りの湯小屋の雰囲気が台無し。 |
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1人でいっぱいの風呂桶。 お湯が熱いのでとても40分もいられない、すぐに上がる。
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しばらく前にお嬢3が学生時代の友人と、お湯のいい温泉に行きたいというのでこの宿をとってあげたことがあった。 もう夏休みに入った7月の土曜に、料金が手ごろで空いている宿なんぞそう多くはなく、なんとかとれたのはラッキーであったが、帰る早々 「あのね、言ってもいい? お湯はすごく良かった!全員便秘が治ったよ。でも露天は熱くて入れなかった… それでね、お料理が全部ぬるかった、というか冷めていたの…」 固形燃料全盛の昨今、料理が全部ぬるいとはどういうこっちゃ、と思ったものであるが。 |
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母はお料理をすべて並べて食べるのが好きなので、早出しでお願いした。 しかしいま改めて写真を見ても、ほとんど覚えていないのである。 |
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あら、サラダに甘エビと帆立貝柱が のってたんだ! とか… |
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これなんだったのかしら… ホースラディッシュがあるからローストビーフ?だっけ… |
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うーん… 山の中だから、多分イワナ? とか… |
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あ〜! 海鮮鍋だったんだ! などと… |
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これイワナじゃないし… なんだろ? 献立表を探し出して、 |
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おなかがすいていて何でもおいしくいただいた。 量もたくさんある。 そんなお料理であった。 |
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貸切のお風呂のドアを開けて母が 「ま! あんなとこにホースがとぐろ巻いてる。あら、お掃除道具がいっぱいね…」 年寄りの母に、寒さの中で浴衣をぬぎかなり熱いお湯に入るという暴挙をさせた私は、ちょっと反省した。 |
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おはよ〜 にゃんにゃん。
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なにかもぐもぐとお食事の最中。 さあ、私たちも朝ご飯に。 |
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朝はお食事処。 |
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お嬢3の「みんな冷めていたの…」というのが分かったような気がした。 湯豆腐はその場で火をつけてくれるし、 温かなお粥も出る。 しかし「器が熱いですから気をつけてください」という<こづゆ>は、器は熱かったが中身がぬるかった。 |
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その後運んでくれたご飯と味噌汁がたいへんぬるくて、たぶんお嬢の中ではお食事の色すべてがこの印象に染まったのであろう。 |
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記憶というのはどんなふうに蘇るので あろうか。 たとえばこの宿の冷めた焼き魚を口に運ぶときのよどんだありきたりの動作。 |
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ふと私は、かつて同じ動作をしてまったく別の感動をしたことを思い出す。 |
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