鎌先温泉 時音の宿 湯主 一條

2006年2月19日(日) 本館 1人泊 @11700円(税込み)

http://www.ichijoh.co.jp/

 

“草津でつるりん”の捻挫は治ったけれど、筋肉痛…

自分ひとりの体重と尻餅の衝撃を支えるのに、普段使わない筋肉が頑張ったらしい。
治りが遅い… う〜ん、人間はこのように老いていくのか…

考察しててもちっともよくならないから…

やっぱ草津かな〜 でもなんか別のお湯が…
そのとき私の脳裏にひらめいた、木造4階建ての美しい建物!

あるじゃん!! 傷の鎌先「湯主 一條」!

私が行った宮城の宿は、どこもお食事がおいしい。
HPを見ると「一條旅館」も若女将の代になって、湯治メインの本館をお食事処にしたり、
プランにクリスマスディナーを入れたりと張り切っている。

まあ私としては、あんまりピキピキモダ〜ンにしてほしくはないんだけど。

予約予約〜!
電話の相手は年配の男性、はなから別館と思われたらしいので、あわてて否定。
「本館!本館!本館!本館!本館の湯治用のお部屋に!」

あの木造の本館に泊まらないでどーする!!
 

 

白石蔵王駅前。

パチンコ屋しかない。

蔵王の雪もやや溶けてきたらしく、春も近い。

鎌先温泉まで、平日わずかしかないバスは日曜は皆無。

駅前からタクシーに。

「鎌先温泉の一條旅館に。あ、ちょっと手前で降ります」

「手前っていいますと?」


「最上屋さんのちょっと前まで」

  2400円。

 

 

やや急な坂を、期待に胸膨らませて登っていく。

道の両脇に本館と新館。

間を渡り廊下の通路が通っている。

 

 

釘を1本も使わずに、通し柱で作られたその素敵な4階建てを仰ぎ見る。

 

渡り廊下。

 

来た方向。

坂に沿って1階が2階になりその先に3階となり、その延長の最後が、4階となる。

 

本館の玄関の前に、新館の玄関がある。

着いた! 

ちょっとうっとりして眺めたのち、おもむろにガラス戸を開けた。

帳場とおぼしき古い格子の向こうで電話をかけていた若いスタッフが
「あ、チェックインは新館でお願いいたします」

「本館の湯治のお部屋に泊まるのですが」

「はい、新館でお願いします」

がっかり〜 ここから入りたかったのにい〜

 

 

新館のラウンジに案内され、ふつーのテーブルで記帳。

鍵を受け取る。

つまら〜ん!

お茶とお茶請けが出されるが、ここでじっくりというわけにもいかず、そそくさと飲み干す。

スタッフの若いお嬢さんが「浴衣をお選びください、色浴衣もあります」と言ってくださるが、部屋着持参なので必要なし。

 

新館から渡り廊下を通って本館2階へと案内される。

木造の廊下を通り、本日のお部屋116号室。

いい廊下だね〜 暖房なし。

今日は暖かいが、真冬はそうとう寒いだろう。

 

本日のお部屋、6畳ひと間、暖房はオイルヒーター。

そして!火鉢。

 

アメニティはひととおり揃っている。

バスタオル、ハンドタオル、歯ブラシ、シャワーキャップ、ヘアブラシ、そして足袋ソックス。

羽織もある。

 

火鉢よ!火鉢!

ここでは飾りじゃなく、実用としてしっかり機能している。

炭もたくさん置いてあり、鉄瓶のお湯はしゅんしゅんとたぎっている。

 

探検。

外の眺めは建物しか見えない。

暖房はまったくないけれど、よく磨かれた、古い木造の温かさ。

 

階段を上がってみたり…

 

下りてみたり…

 

部屋の廊下の先に、男女別トイレ、洗面所、自炊用の台所などが。

 

トイレは和式と洋式があり、洋式はウオームレット。

清潔。

換気扇がブンブン。

 

新館のほうに2箇所のお風呂が。

お風呂の前のお休みどころ。

 

鎌先温泉のお湯の内湯入り口。

 

でもまず露天のある、洞窟から出ているお湯のほうへ。

新館3階まで、野を越え山を越え…

ではなく、上がったり下がったり延々と歩く。

 

やっと見えてきた〜

 

脱衣所。

明るく清潔。

「みちのく庵」の宿泊客が立ち寄りで4人入っていたが、すぐ出て行ってしまって貸切状態。

 

かなり大きな内湯と、その向こうに露天が。

 

桶はプラスチックだけど、洗い場は広々。

透明でやや熱めのお湯。 循環なのかな、中央の穴から吸い込まれている。

 

 

毒じゃないんだから、飲んでみました。

さらっと、ほとんど無味無臭。

無色透明。

さらさらで気持ちいい。

露天はぬるめ。 もう山の雪もほとんど溶けて、本日暖かく、のんびりと入っていられる。

 

山の夕暮れ。 もうすぐ春だね〜

 

 

こ一時間つかってから、部屋に戻って火鉢に寄り添って炭を熾す。

口をとんがらせて、灰が飛ばないようにそっと息を吹きかけ、パチパチと火の粉が飛ぶようになると、顔がほてり、
火鉢と炬燵しかなかった幼い日の冬の情景が蘇る。

やかんには鉄瓶に足す水がたっぷり入っている。

 

おにいさんが炭の補充に来てくれた。

「豆炭、あ、3個ありますね。豆炭の使い方わかりますか?」

ああ〜豆炭!
「ええ、ええ。わかりますよ〜」

そう、長い夜を豆炭が頑張るのだ。

1個6〜7時間、確かに3個必要なのだ。

2部屋先の湯治客に、夕食が運ばれていった。

6時である。
私もそろそろお食事処へ…

 

 

まず内側の障子に鍵をかけ…

 

外から反対側の障子に鍵を… かける… 

かからないよ〜

いくらガタガタと試みてもだめである。

そもそも付いていなかったのを、無理して付けたから不具合が生じている。

これ以上ガタつかせるのは2部屋先の今年70歳の肌の綺麗なご婦人に失礼なのであきらめる。

なぜ知ってるかって?

さっきご飯を運んでいった宿の人と話しているのが全部聞こえたからである。

取られるものなんぞ持っていないし。
以後、鍵、放棄。


 

 

 

新館の通路にスタッフが待機、案内されてぐるっと回ってもとに戻って結局私の泊まっている上の階に歩いていく。

この時間帯は廊下のCDプレーヤーがジャズを流している。

いらないような気もするが。

 

 

 

暗い廊下を、うっすらとほのかな灯りが照らす。

 

湯治用のお部屋をそのままお食事処にしてある。

「こちらへどうぞ」 
障子をあけてくださる。

これはまた…

 

 

神楽坂の料亭の、奥深い個室に案内されたような錯覚に陥った。

なんと品のあるお膳…

 

障子で仕切られた部屋はヒーターで暖まり、椅子に腰掛けると上からほんのりと照らす灯り。

仲居さんが廊下を行き来する音、障子に映る影、話し声、そして立ち昇る梅酒の香り、黒く光るテーブル、それらが渾然一体となってなんとも不思議な華やかさをかもしだす。

 

サーブしてくださる仲居さんの素朴で穏やかな言葉に導かれて、お食事が始まる。

前菜 百合根豆腐、筍・ウド・蕗味噌和え、根三つ葉絹酢かけ、鴨ロース。

 

冬のシーズンのみの地酒<生しぼり 蔵王>をお願いした。

 

汲み上げ湯葉。

しゃぶしゃぶにする前に、膜になった湯葉を、わさびをわずかに付けていただく。

「2回、うまくやれば3回取れますので」

しゃぶしゃぶの前に3回、そしてしゃぶしゃぶの後にもとても濃厚な湯葉が取れて楽しめた。

 

豆乳しゃぶしゃぶ。

だし汁を足し、宮城野ポーク霜降りレッド、豆腐、水菜、春菊、ねぎ、ほうれん草、葛きり。ゴマだれで。

 

まこガレイ菜の花造り、マグロ。

宮城のお魚は新鮮で美味しい。

ひと手間かけて菜の花に巻いてある脂ののったカレイと菜の花の歯ざわり、ひんやりしたマグロ、繊細なツマ。

この小さい器の中、気合が入ったお造りである。



鱈とホタテのガレット ジャガイモのスープ仕立て。

あっさりとした鱈とホタテは巻かれたベーコンの脂と塩味でほどよく、適切な火の通し方で、ふっくらした白身の淡白さとプリプリ感に満ちて、丁寧に添えられた野菜の甘みが嬉しい。
カブ、ミニキャロット、細根大根、ブロッコリー。

濃い目のやさしいヴィシソワーズのようなソースのために、スプーンを添えてくれた。
 

 

地酒 <生しぼり 蔵王> 
よく冷えていてあっさり、飲み心地よし。

が、しかし、するする入る感じが先立って、いまいち顔が見えない…

 

軽くマリネした鱒と山菜のサラダ仕立て。

うるい、たらの芽、姫竹、アンティーブ、ウド、ラディッシュ、ソラマメ、ルッコラ。

 

爽やかにマリネされ、やや厚めにスライスされた鱒を口に入れたときの存在感。

そして種類豊富なそれぞれの野菜は、すべて異なった形に包丁が入っていた… 

脱帽…

 

癖のない美味しい豚肉、ほうれん草の香りと甘さに驚く。

 

おしながきに「タラバガニステーキ」とあった。

いや〜 またカニと格闘か…

身だけのカニが出てきた〜 まったく万歳!である。

見かけより実(じつ)を取ってくれる配慮に、うれし涙…

 

お米は宮城の<ひとめぼれ>、くずした豆腐が入っているけんちん汁、香の物。

お米は〜 おいし〜い!

全部はいただけなかったが、ふっくらとむらされ、甘み、香り、味とも、しみじみとおいしい。

 

お食事が終わったらフロントに電話して、デザートが運ばれる。

ラ・フランスのジェラート イチゴ、キウイ、ミント添え。

目にも鮮やかなデザートをいただいて、そして1時間20分のお食事は終わった。

新館のもっと高いお部屋に泊まると、お食事内容はグレードアップされるのだろう。

しかし、これで充分!充分以上! 11000円のお宿代である。

佐々木敏雄料理長、お見事でした!!

 

おなかいっぱい。ま〜ん〜ぞ〜く〜

たら〜んたら〜んとお部屋に帰ると、お布団が敷かれていた。

70歳のご婦人の部屋からテレビの音が聞こえる。

ごろりんと横になって、私もテレビをつける。

折りしもオリンピック、日本人男子フィギュアスケート選手がジャンプに失敗して転倒したシーンを流していた。

いっ、いったそーう… 草津のつるりんが蘇る… 怪我せんでくれい…

 

 

 

10代の女子フィギュアの選手がインタビューに答える。

「自分で楽しんで滑ります」
懸命な笑顔とは裏腹に、少女の全身から苦悩がにじみ出る…

生き物には、その身の丈に合った時間が流れる。
植物には植物の、猫には猫の、人間にはその人間に合った時間が。

15歳で称賛と栄光を勝ち取り、18歳で挫折して絶望し、再起して25歳で引退するという、圧縮された時間を駆け抜けたのち、彼女たちはどんな人生を送るのだろうか…

 

 

元オリンピック選手の30代と思える解説者の笑顔は、私には老後を楽しんでいるおばあさんのように映る…

誰もいない。

お湯は静かに落ち続け、かけ流されて石の継ぎ目から細く流れてゆく。

男湯は窓があるようだが、女湯のほうは窓がない。

1人の時間を楽しむ。

加温され、やや熱め。

すっきりと気持ちよい。

 

露天のお湯と違い、細かい黒っぽい湯の花が舞う。

底にはゆらゆらマリモのように集まった湯の花が揺れている。

静かな静かなひととき。

一応名目は捻挫の治療だったので、もうたいして痛くない足をストレッチする。

 

お湯の量は多くはない。

でも、たくさんの人を助けてきたんだよ
ね〜

 

 

部屋に帰って、火鉢の前に陣取り、炭を熾す楽しさったら!

食事どき以外ほとんど飲まない私に、残したお酒の瓶を「お部屋でゆっくりお飲みくださいな」と、持たせてくれた。

火鉢の前で味わう。

常温になって、やや目鼻立ちが見えてきた。

前に出てきた酸味、鼻に抜ける香り、けっこうシンのあるお酒のようである。

 

シュンシュン… シュン…

松籟を肴にゆっくりと味わう…

 

あ〜ら、目の前に鉄瓶があるよ〜

というわけで、お燗。

どうやらうら若いお嬢さんらしい。

 

廊下をパタンパタン、スリッパの音をさせてトイレから帰り、最後の燗冷ましの冷たい一口を飲み干して、電気を消した直後に見たものは…

「おやすみなさい」 
目元すずやか、小柄な宮城の見返り美人の笑顔… 

 

朝7時に、廊下をお食事が運ばれていった。

あまりよく眠れなかった私も、熱いお湯に入って、朝ご飯だ〜

 

昨夜と同じお食事処に。

 

温泉卵なぞでお茶を濁したりしないぞっ!という気概が伝わってくる朝ご飯。

 

 

夜中の食事に等しい私は、一口ずつしか食べられなくて悲しい…

どれも丁寧に作ってあり、甘塩のおいしい塩辛も、もっとご飯が食べられたら、とつくづく思う…

 

焼きたて、肉厚、ホントにおいしいサバであった。

 

 

鶏肉、ほっくりとしたジャガイモ、白滝、玉葱、ニンジンが入った、元気が出る温かな煮物。

その向こう野菜サラダ。

 

火をつけて煮込む温麺。

 

おいしいご飯、お味噌汁。

自分があちこちつつきまわして食べたあとを見ると、ホント、いやになる。

おいしいものを作ってくれた人のためにも、できることならきれいに平らげたいと思うんだけど…

ご馳走さまでした!

 

コーヒー、ヨーグルト。

 

タクシーを呼んでもらい、乗り込む。

和服姿の若女将が、手を振って見送ってくださった。

 

しんしんと雪の降る時期は、あの廊下は凍え、あの6畳の部屋は寒かろう。

だからこそ熱いお湯がひとしおありがたく、火鉢がいとおしく、鉄瓶の音が夜のしじまにかすかに響き、それに耳を傾け、かじかむ手を差し伸べる。

冬のさなか…

そんな時期に、またきっと訪れよう、と思った。

 

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