2006年10月14日(土)

新潟県 五頭温泉郷  村杉温泉 環翠楼

離れ「寛ぎの明治の間」2人泊 @25350円
http://www.van-rai.net/kansuirou/index.htm

 

この時期、母と私は「なんてったって新米!おいしい新米!!」である。

となれば〜!新潟しかない!!

母と行くので、比較的安い露天付きのお部屋があるこの宿にした。
HPで見ると、大浴場より離れのお部屋のお風呂のほうが良さそうで、私は大変楽しみだった。

紅葉にはまだ早いが、広い庭の木々は豊かで、そして土曜も同一料金である。
 


 

新潟に行くっていうのに新幹線に乗るなり母は
「ねえ “かもめの玉子” 売ってない?」
「え? …あれは岩手のお菓子よ… この前岩手に行ったときには見向きもしなかったくせに」
「あれから頂き物で食べたの。おいしくってさ、孫も大喜びだから。新幹線なんだし」

孫が喜ぶからって… 上越新幹線で東北新幹線の菓子を買おうとするな〜!
 

「ねえ、聞いてみて〜」
っていうから仕方なくカートを押してきたお姉さんにコーヒーを頼みながら小声で
「まさか岩手の“かもめの玉子”などありませんよね…?」
「岩手のお菓子ですか? 申し訳ありません、東北新幹線のお菓子は…」

申し訳ないのはこっちである! あー 恥ずかしっ!!
 

 


 

新潟駅からバスで40分ほど、刈り取られた田んぼの風景がなだらかに続き、
うらうらとした秋の日差しの中で、米どころの豊かさを垣間見る。

「新潟駅で “かもめの玉子” 売ってないかしらね?」
な、なんてことを… !!
「帰りに駅で見てみようっと」
信じられ〜ん!! まったく、頭の中どーなってんだ…

バスの終点 水原(すいばら)に、宿からの迎えの車が来てくれる。
 

地震や台風の影響もなく、
過疎の絶望感に裏打ちされたような空虚さとは無縁の、
家には子供が若者がいて、夕食は家族で笑いながらおいしいお米の食卓を囲む、
そんな情景が目に浮かぶ明るさを感じる。
 

うら寂れた温泉も多い中で、人影は見えずともここには整備された道、はげてない看板。
生きている温泉街、そんな雰囲気があってほのぼのとする。
 

広い敷地の中を車はしばらく走り、本館の前に到着。
女将さんと若女将の出迎えを受けて、本日離れの「寛ぎの明治の間」に。
 

 

池を渡り…

 

あちこちに点在する離れ。

 

こちらの3箇所の離れは背後の渡り廊下で本館に繋がっている。

 

「寛ぎの明治の間」玄関。

 

廊下の端から畳敷き。

9畳以上。

広々と、なんともゴージャスな開放感。

 

ガラス戸、丸窓からの緑がすがすがしい。

 

 

ほどよい距離の向こう、昭和初期の見事な造りの2階建ての離れが見える。

私がこの次に行く宿は、「強羅・環翠楼」。
前々から気になっていたので、ここはひとつ歴史が古いほうのお宿でお尋ねしてみた。

「こちらと箱根の環翠楼は、何かご関係があるのでしょうか?」
「ぜーんぜん関係ございません」
とのことであった。

玄関方向。

「ときどき間違えて電話してくる方がいらっしゃいます。なかには間違えて予約されるかたも」

あ〜…  みなさん間違えないよ〜にね〜 …
 

 

お迎え菓子。饅頭。
普通の味。

 

ワイドテレビ。

アメニティ。

廊下にある藁みたいな植物で編んだエスニックなスリッパを見て母が
「まあ!これいいわね〜 ここで売ってるのかしら?」
どう見ても日本製ではなく、タイとかべトナムとかそんな感じである。

「聞いてみて」
「へ?」
「これどこで売ってるか、仲居さんに聞いてみて」
「私が? …」

 

3畳の小部屋。鏡台がある。

仲居さんにスリッパがどこで手に入るか聞いたら、若女将が新潟市内のインテリアショップで買ったものだという。
20代後半の可愛い若女将は、いまお母さんの後姿を見ながら頑張っている。

「新潟市のどこかしら?」と突っ込んでくる母に
「もう!地元の千葉でさがせ〜〜」
 

 

廊下付き当たりの冷蔵庫。

スペースあり。

 

洗面スペース。

 

ドライヤーあり。

トイレはシャワートイレ。

 

部屋のお風呂へ。

2人ではもったいないくらいの、ゆったりとしたお風呂。
 

ガラス戸を開ける。
母は虫が入ってくるからと嫌がったが、かまわずガバッと目いっぱい開ける。

ありがたいことに虫はぜんぜん入ってこなかったし、夜は蛾も飛んでこなかった。
しかしシーズンにはカメムシが大量に発生したりするそうである。
 

3人でも充分に入れるくらいの大きさ。
なんとも贅沢〜!

「あなた1人で入ってらっしゃい、私はいいから…」と、
どこの宿でも大浴場に行くのはおっくうがる母だが、
このお風呂には「さあ、入ってこよう」と、さっさと1人で入った。
 

 

元気とはいえ、高齢の母にはそれなりの気遣いが必要で
他人の気配やら足元への注意、入っている時間、お湯の温度…
どこかで常に神経をはりめぐらせ、私もなかなか心おきなく、とはいかない。

こんないいお風呂が付いている部屋なら、
母が1人で入っても何かあったら声をかければすむと思うと、
お互い気兼ねなく、時間も人目も気にせず充分に楽しめることがうれしい。
 

 

露天ではないが、庭の緑や風の音が楽しめる、広々と素敵なお風呂。

 

 

シャワー、からんのある洗い場もゆとりがある。

お湯はラジウムの冷泉を沸かして掛け流し。
できたばかりのすがすがしい木の香の漂う湯船、無色透明の
お湯。

まだ明るい庭を散歩。
 

よく手入れされてしかし自然はそのまま残され、この時期暑からず寒からず、
なんとも気持ちのいい時間であった。
 

目の前の戸建ての離れからは、グループでの宿泊客の賑やかなさざめきが聞こえ、
夕食を待つ人たちの楽しげな期待感がこちらにも伝わってくる。
 

 

ちょっと探検。

部屋の裏から廊下に出る。

 

離れを繋ぐ細い廊下を通り…

階段を降り、いったん本館の土間を通って再び本館に上がり、端にあるお風呂に。

もう宴会場には人が入り、各部屋の前にも配膳の準備が。
 

 

脱衣所、誰もいない。

 

風呂場。当然誰もいない。
四角いシンプルなお風呂。
足の先を浸けてみる。
部屋のお風呂のほうがいいので、
Uターンして帰る。

お食事は部屋食。
さっきのぞいた結果、内容は本館宿泊でも同じようである。

グレードアップもできるが、私たちは通常のメニュー。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

おいしい新米を食べに来たのである。
お刺身もおいしい、鮭とお蕎麦の蒸し物もカマスの塩焼も、村上牛のすき焼きもおいしい。

しかしご飯である! 母も私もあっちを残しこっちを残しておなかを加減しながら、ついにご飯に行き着いた!
 


 

噛むほどに甘く、口いっぱいに広がる、懐かしさにも似た優しい香り、
ほんのり塩味の紫蘇の実のプチプチ感を楽しみながら、幸せに噛む。
ひたすら噛む。

二人で黙って噛む。

一膳のご飯を食べ終え、ぱんぱんになったおなかをさすり、
なんとなく「やったぜ〜」みたいに目を合わせ…

お互い幸せに微笑んだのであった。
 

当然デザートは翌朝まわしに…

 


 

夕食後も話し声や笑い声、満ち足りたひと時を楽しんでいる人たちの気配がする。

9時をまわると森閑として闇の気配に満ちてしまうような宿と違い、
ちょっと華やかな、日常を離れて旅に来ている晴れやかな空気が心地よく、
ガラス戸を開けてライトアップされた庭を見つめる。
 


 

母が寝た後、冷蔵庫の地ビール「スワンレイクビール」なぞ飲んでみる。
来る途中に工場とビヤホールがあった。

ハーブのような香りのビールで、若いお嬢さんが「おいしい〜」とか言いそうであるが…
強い香りだけで味はちょっと… 
まあ、今一番金を落としてくれるのは若いお嬢さんたちだからこれでいいのかも。

地ビールあちこちやたらあるが、おいしいと思えるものはほとんどない。
 

 

 

朝の足。

 

風が高い木々の梢を揺らすのが見え、
その風が低い茂みに流れて
葉がサヤサヤと鳴り、

やがて湯船の
自分の頬を通過していく気配…

動いてきたその空気の塊を
肌が察知するとき…

まぎれもなくいま流れてきた
その風の軌跡を、
目と皮膚で感じられる新鮮な時間。

 

朝の散歩。

 

 

セルフポートレート。

 

はげていない道しるべ。

 

本館の土間を抜けると通りに出て、こちらが正面。

 

朝ご飯。

 

昨夜大量摂取の結果、ご飯は少ししか食べられない…

 


 

出来立てのお豆腐。

おひつにたくさん残ったご飯を見て母が
「あなた、言って」
「は?」
「このご飯、お握りで持って帰りたいから、仲居さんに言って」
 


 

ずっしり3個分くらいの重さのお握りの袋を笑顔で渡され、
母は幸せそうに
「これは誰にもあげないの。私だけで食べるから」
はいはい…

仲居さんと並んで見送ってくれる若女将に
「次に来るときは、ぜひ旦那様と一緒に迎えてください」と言ったら
「(候補を)連れてきてください」

う〜ん… 私の周りはパッとしないのばっかで…
 


 

瓢湖のバス停まで車で送ってくれる。
白鳥がすでに飛来しているが、
あまりにカンカン照りなのでぜんぜん雰囲気が出ず、まるでアヒルの団体のようであった。
 


 

よーく見れば白鳥。しかしアヒルもいるよ〜!

日陰のないバス停で、強い日差しにじりじりとあぶり焼き状態でバスを待つ。
黒っぽい服の私たちには、この天気の良さは迷惑だった…
 


 

新潟に向かうバスには次々にお洒落した若いお嬢さんたちが乗ってきて、
たちまちに座席は埋まっていく。
三々五々休日をどんなふうに過ごすのか、車内は楽しそうなおしゃべりに満ちる。

わずかに老人と子供しか乗らないバスばかりの温泉地が多い昨今、めずらしい。
 


 

“かもめの玉子” から母の気をそらすために、港のそばに建っている
高層ビル、朱鷺タワーに。
通りを隔てて魚の市場があり、本日の土産は甘エビに決定。

宅急便で送ればいいのに「今日の夕食に食べさせてあげたいから」と、
甘エビ2kg入りの箱に手を出す母を制して1kg入りの箱にさせ、
筋子1腹、カニ味噌缶など買い込む母の頭からは “かもめの玉子” はすでに消えていた。
 


 

朱鷺タワーはコンベンションホールなどがある高層ビルで、入場料を取らないガラス張りの展望室がある。

日本海を初めて見た母は感激。

けむったような静かな海が、穏やかに広がっていた。
 

信濃川。

 


 

その河口、そしてはるかにかすんで佐渡ヶ島が見えた。

「まあ… あれが佐渡ね… そのずっと向こうが、北朝鮮ね…」

ずっと向こうとはいえ、ミサイルが飛んで来る距離ではある。
 

 

おいしいお米のお握り3個ゲット、日本海を眺めながらソフトクリームを食べ、充実した土産を買い込んだ母は満足げであった。

 

  新潟駅で新幹線を待つ間、ベンチに座って弟に
メール。
大荷物だから迎えに、とせっせとメールを打っている私の膝を母がツンツンする。
「いま、メールで忙しいのよ〜!なに?」

母が小声で囁く。
「横田めぐみさんのご両親よ…」

母の目線の先には、駅員に誘導されて歩いていく夫婦の姿があった。
私たちは、その寄り添って小さくなっていく後ろ姿を、黙って見つめていた。

終わりの見えない長い長い闘いの日々…
どこにでもある普通の家族だったはずなのに…
痛ましさが胸を打つ。

温泉帰りに、わがまま言い放題の母の隣に座って弟にメールを打つ、
私のこのありふれた日常は、どれほど価値あることであるか…



そんな思いが強烈にわき上がり、
激しく私の中をよぎっていった一瞬であった。